こんにちは、弁護士の貞永です。
本日は、IT企業やエンタメ企業などでよく問題になる、業務委託契約について扱いたいと思います。
1 契約書によくある「検収」の項目
業務委託契約には、「検収」という項目がよく出てきます。
この項目には、たいていの場合、以下のようなことが書かれています。
業務が完了したら、成果物を渡して●日以内に「検収」を行うこと
何の返答もされない場合は、検収OKとみなされること
検収の結果、不具合や仕様と異なるところは修正すること
修正の費用は受注側の負担となること
以下、検収に合格するまでこの作業を繰り返すこと など
要するに、納品後に検査をして、NG項目をやり直させるための条項が検収条項です。
では、この検収で見つからなかった不具合などは、一切修正を請求できないのでしょうか?
2 検収の法的位置づけ
検収はシステム開発業界では一般的な用語ですが、これを法律上定義した規定はありません。
また、システム開発の委託契約書には、「契約不適合責任」という条項がきまって登場しますが、これと検収条項の両方が入っており、両者の意義の違いは一見すると判別できません。
契約書に何ら規定がない場合、法律上は、以下のように処理されることとなります。
商法上の検査義務
検収に似たものとして、商法上には「検査義務(商法第526条第1項)」という規定があります。
これには、以下のように定められています。
第五百二十六条
商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
この規定の通り、発注者は成果物を受け取ったら遅滞なく検査をする義務があり、発見したのに告げなければ代金の減額請求等は行えません。
「契約不適合責任」とは
契約不適合責任は契約書でもよく見かける項目ですが、民法上に規定があります(民法562条以下)。先ほどの検査義務を定めた商法526条2項と3項にも規定があり、ビジネスとしての取引(IT企業が請け負うシステム開発契約など)では商法の規定が優先されます。
その結果、契約書に何も記載がない場合、法律上は以下の通りとなります。
納品時には検査を行わなければならない
検査で発見した不具合や契約に合わない事項はこれを告げて修正させる等しなければならない
発見したのにこれを告げなかった場合は、あとで修正させたり代金減額等をすることはできない
ただちに発見できない不具合であっても、6か月以内に告げなかった場合でも修正や代金減額等を要求できない
契約書に検収と契約不適合の定めがある場合
契約書の規定が優先されます
上記の通り、契約書に規定がないと、商法上の検査義務と契約不適合責任の期間制限を受けることになります。
これに対し、検収と契約不適合について契約書内に法律と異なる定めがある場合は、原則として契約書の規定が優先されます。
御社のビジネスにあったオリジナルの契約条項を作っておきましょう
そのため、自社にとって少しでも有利な条件で契約するため、ただちに発見できない不具合の申告期間を1年間に延ばしたり、検収のフローについて独自のやり方を定めておくなどの処理を契約書上でほどしておく必要があります。
どのような規定が自社の契約を有利にするかは、発注者側か受注者側かや、どのような業態でどんな成果物を作るのかによっても異なります。
検収合格後は修正請求等が一切できないのか?
検収を推定規定とみる見解について
上記の通り、検収は大きな効果を持ちます。
しかし、いったん検収をするとどんな不具合も修正請求等ができないのかというと、必ずしもそうではありません。
裁判では、検収を仕事(業務)の完成を推定すると見る傾向があり、逆にこの推定を覆すだけの立証をすると、検収をしていても修正請求等ができる場合があります。
次のフェイズに進むためにやむを得ず検収した場合はどうすればよいか?
開発現場では、次のフェイズにスケジュール通り進むために、受注者から「修正を後でするので、検収書だけ先にください」と言われるケースもあります。
例えば、アルファ版を開発していて、これを修正しつつ、できるところからベータ版の開発に取りかかるという場合、ベータ版の社内稟議や契約承認を通しつつ両者を並行で進めるために、社内処理の都合上検収書の発行をしなければならないということもありえます。
そのような場合でも検収書を漫然と発行してしまうことは危険です。
簡単に業務が完了したとの推定を与えないために、修正箇所を具体的に記した上で、「その完了と検査通過を条件として認める」といったような記載をする等の対応をする必要があります。
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